2016年12月31日土曜日

ゆく年くる年 2016



今年ももう少しで終わり。
先ほど最後のチェックインのお客様が到着しました。
慌ただしく新幹線に乗り、この峩々で年越しをとお運び頂きました皆様に心から感謝を申し上げます。ありがとうございます。
おかげさまでゆっくりといつもの峩々の大晦日です。

この1年も本当に大変お世話になりました。
あっという間の1年。毎年短く感じております。
今年は春に第二子が誕生し、その前後から子育てモードで走って来た部分もあります。
峩々というこの環境で子供を育てる。悩んだ末にそう妻と決めました。
遠刈田温泉での生活も現実的ですが、やはりそれではいけないと考え直しました。
子育てがし易い。生活環境や教育環境が整っている。というだけで選択して良いものか?
もちろん妻はその方が楽だと思いますし、スタッフや弟夫婦など家族の気苦労なども少なくて済むのは当然。
しかしながら、我々の経営の目的は「永続」です。「それは仕事を継承する」というニュアンスとは明らかに異なると、子供を持って再認識するものでした。
自分の子供にはでるだけ財産を残したい。しっかりとした技術を身に着けさせたい。創業者の精神を継承させたい。と事業主は普通に考えると思います。
でも「峩々に暮らし続ける」という大前提がブレると子育ても失敗すると思います。
例えば仙台市内にマンションを借りてそこに生活の基盤を作る。そこから私が峩々に通勤して旅館を営むことも現実的に可能です。3交代のシフトを組む事も、監視カメラの映像をスマートフォンで確認する事も、マネージャーを常駐させる事も、私の意思決定ひとつです。
でも、それを選択しなかった。そしてこれからも選択することは絶対にありません。
峩々の自然環境に寄り添い、毎日湧きいでる源泉に手を合わせ、ここに旅館が存在することをお客様と共に感謝して暮らしていかなければ立派な七代目は育たないでしょう。
旅館のみならず家業の継承には様々な困難や、時には他人に言えないようなトラブルを抱えるものです。
それらを全部包み込んでもなお余りある仕事、生活、哲学がここにある。
その絶対的な存在なくして、トラブルを乗り越えてまで両親の仕事を継承する事はないでしょう。
形ばかり先行した子育てに私は疑問を感じる反面、そのような本質的な生活を望むようになってきたのかもしれません。


今年も蔵王山噴火警報の風評被害に振り回されました。
と言っても目の前にいるお客様ではなく、旅館業界や地方行政、金融機関などの対応に本当に時間を費やしました。
「生き残りをかけて頑張りましょう」「火山とは長く付き合っていかないといけません」「有事の際の連携を密にしましょう」などと言う言葉を何度耳にしたことか。
様々な所から届くこれらの言葉に傷付きました。
心のこもっていない言葉は時として心に刃を突き刺します。
風評被害の当事者になること。
その深く鈍い痛みは時間の経過によって単純に癒えるものではありません。
癒えない傷ならば、いっそ歩みを止めること無く笑って進もうと思いました。
それだけ自身が山と対峙する時間、答えを出すまでのプロセス、歯を食いしばること、全てが現実で必然的に訪れた出来事です。
ならばそれも含めて楽しもう。それも大きな経験のひとつとして自分の歴史に刻まれるのだと思えば、ワクワクしてきます。
来年はもっと深く山にものめり込んでいきたいと思います。


それから大きく変わったのはネットエージェントとのお付き合いです。
インターネット予約サイトが主流化している昨今。
色々考えるところがあります。
やはりこれも見直さなければならないと思います。
コミュニケーションレス。コミュ障。
どんどんお客様と距離がでてきてしまう。
予約する時は名前も知らない人間のレビューや星の数を最優先にし、泊まった感想もネット上に書き連ねる。
もっとお客様と旅の話しがしたい。
その先に見え隠れするロマンあふれる人となりを感じてみたい。
そういったインフラが整備されればされるほど、スタンダードになればなるほど、お得意様とのコニュニケーションをもっともっと高めていきたいと切に思います。
来年はお話する時間をもっと増やして、お手紙を書いたり、プレゼントをお送りしたりしたいと思っています。


来年は短期間ですが大学の講師をすることになりました。
旅館を営んでいながら言うのもおかしいですが、自分自身は「外」で仕事をする方が好きです。
望まれて声を掛けて頂く。時間通りに伺って数百人の方々の前で話しをする。そのための準備をする。話し終わって何が伝わったのかを深く考察する。
自分自身の頭が整理できているか否かがすぐにわかる。
その中で1人でも心に届く言葉を選びたい。
専門的な分野で研鑽していく自分を客観的に楽しみたいと思います。


本当に個人的な目標ですが、ギターが弾けるようになりたいですね。
そう思ったのは息子と旅がしたいと心から思うからです。
キャンプしながら各地を回って、時には秘湯の会の会員宿に会いにいったりしたいです。
ロードムービーに欠かす事のできない小道具といえば「アコースティックギター」です。
名も知らぬ街で名も知らぬ人に出会い、また懐かしい友達を訪ねるのも良いでしょう。
私はこれから息子と沢山の短編映画のような旅をし続けたいのです。
「旅をする事」「旅人を見送る事」「思いを馳せる事」
私が息子に教え、その息子から教わるライフワークなのだと思っています。
新しい弦を張り直してさっそく練習です。


ギターに続いて頑張りたいのは「英語」ですね。
中学1年生からおさらいしようと思っています。
今まで勉強という勉強をして来なかった私ですが、息子が小学生になるまで数年ありますので、それまで少し話しができるようになりたいと思っています。
息子が小学生になる頃にはもっと身近に「英語」があると思います。
色々な国の子供達がきっと峩々を訪れる時、私も少しは話しができるようになりたい。
自分が50歳になった時、おそらく今の生活の延長上にはないでしょう。
仕事の環境がガラリと変わる瞬間もあるはずです。
その時までにしっかりとした準備と夢を積み重ねていきたいですね。


普遍的なもの。それは峩々がここに存在していること。
150年変わらず湧いて出る源泉なのです。
私はその番人。
峩々の湯は変わらず。そこに住む者が少しずつ変わっていく。
私どもは代々そうやっていくのです。
これからも。